
【訪日客と日本のお酒②・韓国編】二つのモード 「見せる居酒屋」と「自分のコンビニ」
韓国における日本の酒類の需要が、完全に回復しています。
2026年1〜3月の輸入額は539億ウォン(前年比+20.9%)と過去最高水準。輸入量も2万9,445トン(前年比+16.7%)と大きく伸びました。円安、日本旅行の常態化、そしてハイボール人気の定着が、まとめて追い風になっています。
なかでも、日本の酒類の輸入のうちビールが過半数(57.1%)を占めています。
※出典元:アジア経済
では、韓国からの旅行者は、その日本のお酒をどこで飲んでいるのでしょうか。SNSを追っていくと、答えは一つではありませんでした。大きく二つのモードが並んで存在しています。
なお本稿は検索ボリュームではなく、SNS投稿の定性的な分析にもとづく観察です。
■ モード1:見せる場所としての「居酒屋」

一つめは、居酒屋です。
「現地の人がおすすめする居酒屋」「隠れた名店」「雰囲気のいい店」——こうした切り口の紹介動画・投稿は、韓国のSNSで安定して大きな再生数を集めています。日本の居酒屋文化そのものを紹介するコンテンツも、繰り返しバズっています。
居酒屋が強いのは、見せるコンテンツとして優れているからだと考えられます。店の雰囲気、店員とのやりとり、注ぎたての生ビール、日本ならではの作法。写真や動画に映えるし、「日本に来た」という体験を一枚で語れます。
つまり居酒屋は、旅行の体験を共有するための舞台になっています。
■ モード2:自分のための「コンビニ」

もう一つのモードは、居酒屋とは性質が異なります。コンビニです。
投稿を読んでいくと、居酒屋の華やかさとは別の文脈で、繰り返し登場します。
「日本旅行中、コンビニのビールをできるだけ買って飲み比べてみた。一番のおすすめを教えてあげる」
「観光後のホテルでの一杯。日本のコンビニはビールの種類が豊富で最高」
「コンビニを見つけるたびにお酒を買うゲーム。もはや旅行の遊びの一部」
こちらは、人に見せるための場所ではありません。 観光を終えてホテルに戻り、一人で缶を開ける。夜食と一緒に飲む。コンビニを見つけるたびに一本買う。
居酒屋が「見せる体験」なら、コンビニは「自分で楽しむ日常」です。同じ旅行者が、両方をやっています。
■ 二つのモードは、役割が違う
整理すると、こうなります。
| モード1:居酒屋 | モード2:コンビニ | |
|---|---|---|
| 性質 | 見せる体験 | 自分で楽しむ日常 |
| シーン | 雰囲気・作法・生ビール | ホテルでの一杯・夜食・飲み比べ |
| 共有のされ方 | 紹介コンテンツとしてバズる | 日常の記録として繰り返し投稿 |
| 商品選択 | 出されたものを飲む | 自分で棚から選ぶ |
どちらが大きいか、という話ではありません。 居酒屋の紹介はバズり、コンビニの飲み比べは日常的に共有される。両方とも大きく、そして果たしている役割が違います。
見落としやすいのは、モード2のほうです。居酒屋の投稿は華やかで目立つため、そちらばかりが「訪日時のお酒=居酒屋」という印象をつくります。しかし投稿の量でいえば、ホテルでの一杯やコンビニでの飲み比べも、同じくらい繰り返し語られています。
そして重要なのは、モード2のほうが商品選択に直結していることです。居酒屋では出てきたものを飲みますが、コンビニでは自分で棚から選びます。

■ コンビニで、何が選ばれているのか
そのコンビニでの選択を、もう少し細かく見ていきます。投稿を整理すると、日本のビールとの接触は4つの段階に分かれていました。
| 段階 | 起きていること |
|---|---|
| ① 発見 | 日本各地のコンビニ・スーパーで頻繁に目にする |
| ② 選択 | 知名度、上質な缶デザイン、「日本限定」感に惹かれて購入 |
| ③ 体験 | ホテルや夜食での「部屋飲み」として飲用 |
| ④ 拡散 | 写真とともにSNSへ。帰国後の再購入動機になる |
韓国SNS投稿の定性分析
この流れで注目したいのは、②と④です。
②では、購入理由として「知名度」「缶のデザイン」「日本限定感」の三つが挙がっています。知っている銘柄であることは選択の入口ですが、それと並んで、韓国では見かけないパッケージや「日本限定」であることが購入の後押しになっています。
④は、購買が旅行中で終わっていないことを示しています。SNSに上げた一枚が、帰国後に「あれをまた飲みたい」という動機になります。訪日中の一本が、韓国国内での指名買いにつながっている可能性があります。
そして③の「ホテルでの一杯」は、旅行の儀式に近い行動です。観光を終えて部屋に戻り、コンビニで買った缶を開ける。この時間が、投稿のなかで繰り返し語られています。
■ 韓国市場を動かす3つの要素 ——爽快感・限定性・コラボ性

コンビニで選ばれる背景には、韓国市場に共通する嗜好があります。投稿や事例から見えてくるのは次の三つです。
1. 爽快感(ラガー志向)
韓国の消費者は、強い炭酸と爽快感のあるラガーを好む傾向がはっきりしています。
2. 限定性
「日本でしか買えない」「今しか買えない」。この文脈が、購入の理由として繰り返し語られます。
3. コラボ性
日本のビールの話ではありませんが、韓国のラガー志向を示す事例があります。コンビニチェーンGS25が人気アーティストとコラボレーションしたラガー商品が、強炭酸・爽快感・夏向けという訴求と4,500ウォンという価格戦略でヒットしました。
※出典元:ニュース報道
韓国市場では、コラボレーションが単なる話題づくりではなく、購買を動かす要素として機能していることが分かります。日本のビールにとっても、この文脈は無関係ではないと考えられます。
■ SNS投稿から見える、二つのモード
今回の投稿分析を総合すると、次のような特徴が見えてきます。
- お酒の飲み方には二つのモードがある ——「見せる体験」としての居酒屋と、「自分で楽しむ日常」としてのコンビニ。同じ旅行者が両方をやっている
- 居酒屋は「共有される舞台」 ——雰囲気・作法・生ビール。紹介コンテンツが大きくバズる
- コンビニは「一人の時間」 ——ホテルでの一杯、夜食、飲み比べ。人に見せるためではない
- 商品選択に直結するのはコンビニのほう ——居酒屋では出されたものを飲むが、コンビニでは自分で棚から選ぶ
- 選択の理由は、知名度・缶のデザイン・「日本限定」感 ——知っている銘柄が入口になり、パッケージと限定感が後押しに
- 購買は帰国後につながっている ——SNS投稿が、韓国国内での再購入動機になる
- 市場を動かすのは、爽快感・限定性・コラボ性の三つ
居酒屋の華やかさに目を奪われると、もう一つのモード——ホテルの部屋で静かに缶を開ける時間——を見落とします。ですが、商品が「自分で選ばれる」のは、そちらの時間です。
二つのモードは、競合していません。旅行者は、見せるときは居酒屋へ、自分のためにはコンビニへと、使い分けています。どちらの時間に自社の商品が置かれるのかを考えることが、出発点になるのではないでしょうか。
📊 シリーズ「訪日客と日本のお酒」——SNSで読む3市場
- 中国・台湾・韓国編:なぜ健康志向でもお酒は売れるのか?
- 韓国編:二つのモード——「見せる居酒屋」と「自分のコンビニ」(この記事)
- 台湾編:「多すぎて選べない」は、離脱のサインではない
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このコラムを書いた人

グローバル・デイリー / 海外消費者リサーチ・トレンド分析担当
アジア各国の“今どき”消費動向や人気商品のヒット要因を日々ウォッチ。 SNS分析や現地メディアの調査、商談現場の声などをもとに、インバウンド施策や越境マーケティングに役立つ情報をお届けします。 「実際に、現地でウケている理由は?」「数字の裏にある文化背景は?」──そんな疑問にこたえる視点を大切にしています。