
【訪日客と日本のお酒③・台湾編】「多すぎて選べない」は、離脱のサインではない “飲み比べ”という買い方
台湾からの旅行者の投稿に、こんな声があります。
「おすすめの日本ビールある?」
「日本のビール、多すぎて選べない」
マーケティングの常識に照らせば、これは黄色信号です。選択肢が多すぎると、人は選べなくなり、買わずに離れる そう考えるのが自然です。
ところが、同じ人たちの投稿には、続きがあります。
「日本のスーパー行くと、飲んだことないビールをつい色々買っちゃう
選べないから、買わないのではありません。選べないから、全部買うのです。
台湾からの旅行者が日本の売り場で何をしているのかを、投稿から追ってみます。
なお本稿は、台湾のSNS投稿の定性的な分析にもとづく観察です。
■ 買う場所と、探す場所は別だった
台湾からの旅行者が日本でお酒を買う場所は、主にコンビニ・スーパー・ドン・キホーテです。ただし、それぞれ訪れる目的が違います。
| 場所 | 何をしに行くか |
|---|---|
| コンビニ | 手軽に買える。 「ちょい飲み」需要。コンビニグルメや夜食と一緒に |
| スーパー・ドン・キホーテ | 限定フレーバーや珍しい商品を探しに行く。 ビール好きによる購入が多い |
コンビニは「買う場所」ですが、スーパーとドン・キホーテは「探す場所」です。
同じ「お酒を購入する」という行為でも、動機が別のものになっています。
実際、限定ビールの品揃えが豊富だという投稿が集まる店舗もあります。セブンイレブン横浜ハンマーヘッドについては、限定ビールの種類が豊富だとして、店舗そのものを紹介する投稿が見られます。
店舗が、目的地になっている。 これは「買い物のついで」ではなく、「探しに行く」行動です。
■ 買う単位が、「一本」ではない
投稿から読み取れるのは、購入の単位が一本ではないということです。
「見たことがない商品」「飲んだことがない商品」を選ぶ傾向があり、興味を持ったものは積極的に購入して試す。つい色々買ってしまう。
つまり、彼らがしているのは「選択」ではありません。「比較」です。
一本を選び取ろうとしているのではなく、複数を並べて試そうとしている。 そう考えると、「多すぎて選べない」という投稿の意味が変わってきます。
選べないのは、困っているからではなく、全部試したいからです。
■ 日本酒でも、同じ構造が現れている
この「比べる」行動は、ビールに限りません。
日本酒については、ビールと比べてよりコアなお酒好きが購入する傾向があります。そして日本旅行では、一つのブランドだけでなく、複数の日本酒を試す傾向が見られます。
そして最近、こんな体験が人気を集めています。
新潟駅で小さな杯を購入すると、複数の日本酒を飲み比べできる。
これは、まさに「比較」を商品化したものです。一本を売るのではなく、「比べる」という行為そのものを提供している。
検索面では、獺祭・久保田といった銘柄に加え、十四代が最近になって台湾で話題性を集めています。
※出典元:Google Trends
日本酒でも、購入の単位は一本ではありません。「飲み比べ」が目的になっています。
■ 台湾市場から見えること
今回の投稿分析から見えてくるのは、次のような特徴です。
- 「多すぎて選べない」は、離脱のサインではない ——同じ投稿者が「つい色々買っちゃう」と書いている。選べないことが、複数購入につながっている
- 買う場所と探す場所が分かれている ——コンビニは「買う場所」、スーパー・ドンキは「探す場所」。動機が別
- 店舗そのものが目的地になりうる ——限定品の品揃えが、店舗を紹介する投稿を生んでいる
- 購入の単位が一本ではない ——彼らがしているのは「選択」ではなく「比較」
- 日本酒でも同じ構造 ——複数の銘柄を試す。「飲み比べ」体験そのものが人気コンテンツになっている
「選択肢が多すぎると買わなくなる」——これは、多くの場面で成り立つ経験則です。
ただ、旅行という文脈では、「選べない」がそのまま「全部試す」に接続しているように見えます。同じ投稿を、離脱の兆候として読むか、複数購入の兆候として読むかで、判断は反対を向くことになります。
投稿を読むかぎり、台湾からの旅行者は、一本を選ぼうとしていません。並べて比べようとしています。
📊 シリーズ「訪日客と日本のお酒」——SNSで読む3市場
- 中国・台湾・韓国編:なぜ健康志向でもお酒は売れるのか?
- 韓国編:二つのモード——「見せる居酒屋」と「自分のコンビニ」
- 台湾編:「多すぎて選べない」は、離脱のサインではない(この記事)
当社では、SNSデータや検索データなど海外ユーザーのリアルなオンライン行動を分析し、インバウンドマーケティングに活用できるインサイトを提供しています。海外市場の最新トレンドや消費者行動についてご興味がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
このコラムを書いた人

グローバル・デイリー / 海外消費者リサーチ・トレンド分析担当
アジア各国の“今どき”消費動向や人気商品のヒット要因を日々ウォッチ。 SNS分析や現地メディアの調査、商談現場の声などをもとに、インバウンド施策や越境マーケティングに役立つ情報をお届けします。 「実際に、現地でウケている理由は?」「数字の裏にある文化背景は?」──そんな疑問にこたえる視点を大切にしています。
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