
大阪万博に見る訪日外国人の観光需要の変化とインフラへの影響
チケット販売の出足は鈍かったが、来場者数780万人超を記録
2025年の大阪・大阪万博は開幕前、チケット販売の伸び悩みや財政面への懸念が報じられました。シャトルバス予約やチケット取得手続きの煩雑さも、訪問意欲を下げる要因とされていました。しかし、万博がスタートして以降は状況が変化しています。
6月14日時点で累計来場者数は7,818,321人に達し、順調な推移を見せています。アクセスに関しても、夢洲駅までの電車移動は案内が整っており、QRコードによるチケット認証やセキュリティチェックもスムーズです。また、行ってみると混雑もそこまでではなく、当日抽選に当たれば見ることが可能なパビリオンを中心に回ることもできます。
各国パビリオンが彩る万博の多様性
来場者数が増加する中で、各国が趣向を凝らしたパビリオンも注目を集めています。技術や文化、未来へのビジョンが体感できる展示がそろい、訪れる人々に多様な価値観と驚きを提供しています。
台湾:AIとVRが融合した未来型体験
フォーカス台湾によると、台湾の「テックワールド館」では、AIとインタラクティブ技術を駆使した展示が特徴です。世界初の技術を用いたインタラクティブ(双方向)装置やVR(仮想現実)展示や、来場者にスマートブレスレットを身に着けてもらい、ブレスレットを通じて得られた脈拍のデータを基にした脈拍データをもとに来館者に最適な旅行体験を映像化する仕掛けや、VR展示、AIギャラリーなど、台湾企業の先端技術が披露されています。また、台湾産ランの花と透明マイクロLEDディスプレーを組み合わせた展示や、台湾グルメ・土産の販売も行われ、訪問者の五感を通じて台湾の魅力を伝えています。
中国:月の土壌を世界初の近距離展示
中国館では、嫦娥5号・6号が持ち帰った月壌(土壌)の展示が大きな話題です。中日経済交流ネットワークによると、来場者は高精度のレンズ装置を通じて、月の表と裏から採取されたサンプルの違いを観察でき、月の表裏から採取した土壌サンプルをゼロ距離で展示するのは史上初となります。館の構造は、古代中国の文化的象徴である「竹簡(ちくかん)」から着想を得ており、1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けた、計24の期間で四季の移ろいを表現する「二十四節気」をテーマにした大型マルチメディア動態映像を展示するほか、世界最古の「農業百科事典」である「生経図」などをデジタルで紹介します。また、宇宙飛行士とのビデオメッセージでの交流、AI大型模型によるマ国文化で最も人気のある神話上の人物たちが招かれ、詩を詠んだり多言語で観客と交流が持てたりと技術と伝統文化の融合が来場者を魅了しています。
また、大阪万博では158か国の海外パビリオンが出展しています。上記は一例ですがそのほか、弊社スタッフが来場した情報によるとパキスタン館の塩の展示ではヒマラヤ岩塩(ピンクソルト)の展示や2030年の万博開催地であるサウジアラビアの珈琲を手に建築を楽しめたとのことです。
万博後の課題点と波及効果が今後の焦点に
急増する観光客の影響で、都市部では新たな課題も浮上しています。特に深刻化しているのが、観光客によるスーツケースの放置です。街角や宿泊施設でスーツケースが置き去りまたは捨てられるケースが相次ぎ、現場の事業者からは「対応が追いつかない」との声が上がっています。
その一方で、万博をきっかけに日本への関心が一段と高まり、訪日観光の新たな潮流も生まれつつあります。中国の旅行情報サイト「マーフォンウォー(馬蜂窩)」によると、万博の盛り上がりを受け、大阪は東京を抜いて訪日外国人にとって、人気海外旅行先リストのトップとなりました。そのほか大阪万博の開催を機に、地方都市への観光客の流入も増加傾向にあります。この動きが一過性で終わらず、万博終了後も継続するには、各自治体による長期的な観光戦略や地域インフラの整備が求められます。
スーツケース放置のような課題点を減らすためには、観光マナーの啓発や回収体制の強化といった、受け入れ側の準備も重要です。放置されたスーツケースの再利用でホテルに空きスーツケースを置き、お土産が増えた訪日観光客に提供するなども、リユースサービスの一案としては良いでしょう。万博を通じて見えてきた課題に正面から向き合い、日本全体の成熟度が問われるフェーズに入っていると考えられます。
このコラムを書いた人

グローバル・デイリー / 広報部
媒体部兼進行部の経験を経て、海外のプロモーション会社や出版社とのパートナーシップを築いてきた。各国のトレンドや需要を抑えながら、企業のニーズに沿ったインバウンドプロモーションについて長年にわたり従事。