なぜ健康志向でもお酒は売れるのか? 中国・台湾・韓国のSNSに見る、飲酒と体型管理の「同時進行」
訪日インバウンドにおける酒類消費が伸びています。観光庁「インバウンド消費動向調査」によると、酒類の購入者単価は台湾で前年比120.4%、韓国で109.2%と、いずれも堅調に成長しています。
その一方で、同じ市場では体型管理・ボディケアへの関心も年々高まっています。この二つを並べると、「健康志向が強まれば、いずれ飲酒需要は縮んでいくのではないか」と考えたくなります。
ところが、中国・台湾・韓国のSNS投稿を原語で追っていくと、そう単純ではないことが分かります。生活者はそのどちらも手放していません。彼らが共有しているのは、お酒をやめる方法ではなく、飲みながら太らない方法でした。
そして、その方法はすでに体系化されつつあります。今回は、中国・台湾・韓国のSNSおよび各種掲示板の公開投稿から見えてきた、飲酒と体型管理の「同時進行」について整理します。
■ 中国:飲酒はすでに「運用」されている
中国のSNSでは、お酒好きの層が「太らない飲み方」を互いに共有しています。投稿を整理していくと、飲酒シーンを4つの区間に分け、それぞれに手を打つという構造が見えてきました。
| 区間 | 実際に共有されている行動 |
|---|---|
| ① 飲む前 | 野菜・タンパク質を先に食べて血糖値の上昇を意識する/空腹での飲酒を避ける/高カロリーなつまみを事前に排除する |
| ② 酒を選ぶ | 低糖・低カロリーを優先する/甘いカクテル・シロップ系を避ける/「清酒」「ウイスキー」は比較的マシという独自の説が流通している |
| ③ 飲んでいる最中 | チェイサー(水)を多く飲む/つまみを低カロリーのものにする、または食べない/総量を自分で抑える |
| ④ 飲んだ後 | 翌日のむくみ・胃の不調を強く気にする/酵素・食物繊維・電解質水などで”調整”を試みる/食欲の爆発をどう抑えるかが最大の悩み |
投稿の言葉づかいに、この構造がよく表れています。
「酒好きが10斤(約5kg)痩せた復盤。飲酒と減量の両立は、結局”取捨選択”」
「酒+串焼き+夜食のコンボが一番太る。低糖酒と刺身に変えた」
「復盤」とは、囲碁や将棋の感想戦を指す言葉です。自分の飲み方を一局として振り返り、次に活かす。ここにあるのは我慢の記録ではなく、運用の記録だと言えます。
そして注目したいのが②です。「清酒とウイスキーは比較的マシ」という説は、栄養学的な正確さとは別に、すでに生活者のあいだで流通している判断基準になっています。日本の酒類が、この自己流のルールブックの中で、すでに一定の位置を与えられていることが分かります。
■ 中国:低度数酒は「弱くなった」のではなく「変わった」
飲酒の目的そのものが移り変わっていることは、低度数酒市場のデータからも読み取れます。
低度数酒市場では、女性比率が72%、25〜30歳が42%、「一人飲み」の普及率が38%。購入時に重視されるのは味・香り(68%)とパッケージ(52%)で、ブランド知名度(38%)はそれを下回ります。
| 購入決定要因 | シェア | 投稿から読み取れる心理 |
|---|---|---|
| 味・香り | 68% | 一口目の驚き、不快感のない飲み口 |
| パッケージ | 52% | 所有欲を満たし、SNSで共有したい外観 |
| 価格 | 45% | コストパフォーマンス以上の体験価値 |
| ブランド知名度 | 38% | 「有名」より「自分のセンスに合うか」 |
※出典元:中国低度数酒2026年業界報告。低度数酒とはアルコール度数0.5〜20%の酒類を指し、カクテル・果実酒・米酒・ブドウ酒などを含みます(ビールは対象外)。
強いお酒を勧め合う「飲み会文化」から、微酔い・気分転換・自分への報酬へ。このデータが示しているのは飲酒量の増減ではなく、飲酒の目的のほうが置き換わっているということだと考えられます。

■ 韓国:「控えれば解決する」は、すでに裏切られている
韓国の掲示板を見ていくと、次のような投稿が目につきます。
「ノンアルコールビールなら大丈夫だと思ったのに、2kg増えて絶望した」
「お酒を我慢すると、その反動で夜食を頼んでしまう悪循環から抜け出せない」
「食欲をコントロールできない自分は意志が弱い。何かに頼りたい」
一つめは、ノンアルコールを「禁酒の代替」として受け取った人が、期待した結果を得られなかった記録です。二つめは、我慢が反動を生むという構造を、生活者自身が言語化したものだと言えます。
つまり韓国市場では、ノンアルコールを「飲まないための商品」として設計すると、この層の期待とはズレる可能性があります。彼らが必要としているのは、飲まない理由ではなく、飲んだ後をどうするかだからです。
強い手段が登場しても、日常の管理需要は消えない
韓国ではGLP-1系の医療的な減量手段も話題になっています。ただし投稿では、効果への期待と同時に、費用・通院・副作用への不安が語られます。
「注射は怖いけど、お腹の脂肪やウエスト周りは毎日ケアしたい」
「サプリを飲んでいるという意識が、暴飲暴食を防ぐブレーキになる」
二つめの投稿は示唆的です。ここで期待されているのは成分の効果というより、自分の行動にブレーキをかけるスイッチとしての役割だと読み取れます。
■ 台湾:旅行と体型管理は、同じスーツケースに入っている
台湾の投稿では、日本旅行中に代謝・ボディメイク関連の商品を購入する動機として、最も多く挙がるのは「ダイエット」でした。
購入理由として語られている言葉は、具体的です。
- 「若い世代のあいだで話題になっているので試したい」
- 「日本では安く買えるので、定番の購入品になっている」
- 「ドンキで見かけて、ダイエット効果が主な訴求だったので購入した」
- 「人からの土産品で、ダイエットと美肌の両方を訴求している商品だった」
ここから分かるのは、「食べて飲む機会」である旅行と、「体型管理」が対立していないということです。同じ旅程のなかに同居しています。
「旅行中は食べる」「帰ってから管理する」という時系列で分けて考えると、この購買行動は説明がつきません。彼らは旅行中に、旅行中の飲食に対する備えを買っています。訪日中のディスカウントストア(ドンキなど)が、体型管理商品の一次接点になっていることが分かります。
■ SNS投稿から見える、飲酒と体型管理の関係
今回の投稿分析を総合すると、中国・台湾・韓国の生活者には次のような特徴が見えてきます。
- 飲酒は「我慢」ではなく「運用」されている ——飲む前/選ぶ/飲んでいる最中/飲んだ後の4区間で、それぞれに手が打たれている
- 最も悩みが深く、最も語られているのは「飲んだ後」 ——翌日のむくみ、胃の不調、食欲の爆発
- 「控えさせる」訴求は、すでに回っている彼らの運用と競合する ——特にノンアルコールを「禁酒の代替」として提示する設計には注意が必要
- 旅行と体型管理は同じ旅程に同居している ——訪日中の売り場が、体型管理商品の一次接点になっている
「健康志向が高まっている」という観測そのものは、正しいものです。ただ、その内実を「飲まなくなる」と読むか、「飲み方を設計しはじめている」と読むかで、打ち手は反対方向を向くことになります。
投稿を原語で読むかぎり、後者を支持する声のほうがはるかに多く見つかります。彼らは我慢していません。運用しています。であれば、商品やコンテンツが4区間のどこに置かれるのかを決めることが、最初の一歩になるのではないでしょうか。
当社では、SNSデータや検索データなど海外ユーザーのリアルなオンライン行動を分析し、インバウンドマーケティングに活用できるインサイトを提供しています。海外市場の最新トレンドや消費者行動についてご興味がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
このコラムを書いた人

グローバル・デイリー / 海外消費者リサーチ・トレンド分析担当
アジア各国の“今どき”消費動向や人気商品のヒット要因を日々ウォッチ。 SNS分析や現地メディアの調査、商談現場の声などをもとに、インバウンド施策や越境マーケティングに役立つ情報をお届けします。 「実際に、現地でウケている理由は?」「数字の裏にある文化背景は?」──そんな疑問にこたえる視点を大切にしています。