五輪開幕まであと5年、拡大するインバウンド市場に海外の日本投資も加速
2020年の東京オリンピック開幕まであと5年を切りました。新国立競技場の建設問題や、膨れ上がる競技場建設予算、公式ロゴマークをめぐるスキャンダルなど山積する課題をどのように乗り越えていくのかに大きな注目が集まっていますが、一方で2020年に向けて盛り上がっているのが、海外からの観光客増加によって拡大するインバウンド市場(訪日外国人観光客による国内消費)です。今回は、このインバウンド市場をめぐる状況について解説します。
海外企業も注目するインバウンド市場の拡大
日本国内の人口減少による国内消費の減速感から、訪日外国人観光客の増加と国内での消費拡大は経済活性化の大きなカギを握っていると言われています。2020年東京オリンピックをひとつの目標として、日本政府観光局や観光庁などは外国人観光客の増加を受け入れられる社会作りや外国人観光客向けビジネスの拡大を推進・支援しており、この動きはこれからの5年で更に加速していくものと考えられます。
日本政府観光局のまとめによると、2014年の訪日外国人観光客の数は対前年比29.4%増の1341万人。観光庁が目標としている2020年に訪日外国人観光客2000万人という数字は、確実に超えていく勢いで増加しています。一方で観光庁のまとめによると、訪日外国人観光客による国内消費も前年比43.3%増の2兆305億円と過去最高を記録しており、訪日外国人観光客の国内消費拡大が日本の企業にとっても大きなビジネスチャンスであることを示唆しています。
こうした市場拡大に向けて、日本国内でも通信事業者が訪日外国人観光客向けの通信サービスを展開したり、旅行会社が外国人向けのツアーを企画したり、様々な業界で企業が外国人観光客向けのビジネスを拡大していますが、この市場拡大に注目しているのは日本企業だけではありません。インバウンド市場の拡大は、海外企業の日本への事業展開にも大きな影響を与えているのです。
インバウンド消費を狙った海外企業の日本進出、経済に与える影響は?
2020年を見据えたインバウンド市場の拡大について、専門家はその動向と海外企業の日本進出の実態をどう捉えているのでしょうか。海外企業の日本進出を支援している日本貿易振興機構(JETRO)の担当者にお話をお伺いしました。
担当者は、インバウンド市場の現状について、「東南アジア向けビザ発給要件の緩和、羽田空港発着の国際線の増便、円安による割安感の貢献により、訪日外国人旅行客の数は2014年に1,300万人を突破し、2年連続で過去最高を更新しました。東京オリンピック開催の2020年に向け、政府は観光ビザの要件緩和や免税店の増加などを推し進めており、世界からの訪日旅行客は今後さらに増加することが予測されます」とコメント。こうして急成長する日本のインバウンド市場は、日本企業のみならず海外企業にとっても大変魅力ある投資先として注目されているのだそう。「インバウンド市場には、(1)航空会社・旅行会社などに代表される日本への観光客の送り出しビジネスと、(2)ホテル業・国内観光業・建築・インフラなどの日本国内におけるビジネスの2種類がありますが、実際にJETROにもこれらの分野に多くの関心が寄せられています」(JETRO担当者)。
担当者によると、2003年からの12年間でJETROが支援して日本拠点を設立した海外企業は1200社、海外企業の日本への投資プロジェクトは1万2000件にのぼるといいます。「近年では、特に観光分野での外国企業の日本進出が目立っています。エアアジアXや春秋航空などの格安航空会社(LCC)の就航に加え、最近ではポーランド航空や中国の吉祥航空などのフルサービスキャリア(FSC)も日本路線の就航・拡大を発表。また、中国最大級のオンライン旅行会社・携程旅行(Ctrip)や、ドイツの宿泊予約サイト大手・HRS(Hotel Reservation Service)、スペインのオンラインチケット売買大手Ticketbis、経営破たんした宮城県蔵王町の温泉旅館 竹泉荘を再生した香港のMingly Corporationなどが日本国内でのビジネスを展開させています」(担当者)。
では、こうした海外企業の日本への投資や事業拡大が、日本経済にもたらす影響はどうでしょうか。担当者は、「外国からの投資は、日本の産業界に新しい技術や革新的経営をもたらします。加えて、新しい製品やサービスが日本に登場することで、新たな市場が創出されるのです。対日投資の拡大は、地域経済の活性化、雇用機会の創出につながる“日本経済活性化の鍵”になると期待されています」とコメントしています。担当者によると、観光業に代表されるインバウンド市場は、輸送や宿泊から小売・飲食・娯楽などのサービス業まで、非常に裾野の広い産業で、外国企業の増加と観光客の増加とは相関関係にあり、海外のサービスが日本で提供されることで訪日外国人に安心感を与え、それが消費拡大のトリガーになると考えているのです。
「例えば、日本人が海外を旅行する際、旅行先に日本人ガイドはいるか、和食は食べられるか、日本語対応の病院はあるか等、日本国内と同様のサービスの有無を気にしますが、それと同じように日本に来た外国人は、やはり自国のサービスがあることで安心し、そこから消費に繋がります。急成長する日本のインバウンド市場が、日本への更なる投資を呼び込む上での牽引役となる事を、JETROとしても大いに期待しています。JETROでは、2020年までの訪日外国人観光客2,000万人達成という政府の目標に貢献するべく、観光庁・日本政府観光局・経済産業省と協力し、訪日外国人増加等に向けた『共同行動計画』を策定しました。外国企業誘致を目指すJETROの『インベスト・ジャパン』と、外国人旅行客誘致の『ビジット・ジャパン』の連携によって、更なる訪日外国人及び外国企業増加を目指しています」(担当者)。
インバウンド市場の拡大、海外企業はどうみる?
では実際に、日本に進出して事業を拡大している企業は、インバウンド市場の拡大にどのような期待を寄せているのでしょうか。
オンライン決済サービス大手の「PayPal」で日本地区担当マネージャーを務めるエレナ・ワイズ氏は、7月20日に行われた同社の事業説明会の場で、インバウンド市場の拡大を今後の日本における事業戦略において重要なキーワードのひとつであるという認識を示し、訪日外国人観光客が日常的に利用しているPayPalを日本国内でも使えるようリアル店舗への導入拡大や日本企業へのマーケティング支援などを積極的に行いたいとしています。PayPalは世界203の国・地域で1億6900万人にモバイル決済サービスを提供しており、外国人観光客にとっては馴染みのあるサービス。その利用者基盤を日本国内でのインバウンド消費拡大に活用していきたい考えです。
一方、2010年にスペインで創業し、2014年に日本に参入したオンラインチケット取引サイト「Ticketbis」で日本・韓国担当マネージャーを務めるJavier Corbacho氏(ハビエル・コルバチョ)は、取材に対して「グローバル企業として、インバウンド市場の成長と訪日外国人の増加に大きく期待しています。2020年の東京オリンピックに向けて、Ticketbisの多言語プラットフォームを利用して、訪日外国人に向けて日本のエンターテインメントやスポーツイベントを積極的に訴求していきたいですね。また、先日発表したF.C.東京との提携のような、パートナーシップによる公式チケットの販売も強めていきたいと考えています」とコメント。同社は創業から4年で世界40か国以上にサービスを展開し、年間売上71億円にまで成長している新興企業で、PayPalと同じく海外での支持を日本でのインバウンド消費拡大と国内ユーザーの拡大に繋げていきたいという狙いがあるものと考えられます。
このように、2020年のオリンピック開催に向けたインバウンド市場の拡大は、海外企業の日本における事業拡大、投資拡大にも大きな影響を与えています。こうした動きが日本経済の活性化にとって新たな起爆剤となるかどうか、今後の動向に注目したいところです。
(執筆:井口裕右/オフィス ライトフォーワン)