
訪日インバウンドで活路を見い出す、日本における医療ツーリズムの現状と課題
日本の医療ツーリズム受け入れの背景
現在、日本の多くの病院が経営的に厳しい状況にあります。2024年度病院経営定期調査によれば、回答のあった病院の約75%が2023年度の医業利益で赤字を計上しています。このような中で、インバウンドに活路を見出し外国人患者を受け入れる「医療インバウンド」の推進は、日本の先進医療技術の発展や、減少傾向にある国内患者数を補う手段として注目されています。
さらに、政府の方針としても医療インバウンドの重要性が増しています。「経済財政運営と改革の基本方針2024」の政策文書において医療の国際展開が明記され、厚生労働省や経済産業省を含む関係省庁間での連携も進んでいます。しかし、日本への医療渡航者数は推定2〜3万人とされており、50万人を超えるタイやシンガポール、韓国といった医療ツーリズム先進国と比較すると、大きく後れを取っているのが実情です。
日本の医療ツーリズムの取り組み内容
厚生労働省では外国人患者の受け入れ体制の強化を目的として、「夜間・休日ワンストップ窓口事業(6月19日発表)」を実施しており、医療機関の外国人対応支援を進めています。通訳者の確保が難しい希少言語については、遠隔通訳サービスの提供も行っており、2025年7月15日には説明会の開催も予定されています。
また政府においては訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策が策定され、医療インバウンドの適切な推進の在り方に関する検討会が中間報告を6月12日に発表。旅行者が安心して医療を受けられる環境整備に取り組んでいます。加えて、東京都の保健医療局3月27日の発表では、東京を訪れる外国人などが安心して医療を受けられるよう、医療機関の探し方や制度について多言語対応のウェブサイトを開設しています。対応言語は日本語・英語・中国語(簡体・繁体)・韓国語で、救急車の呼び方ガイドや多言語の医療機関検索ツール、公的医療保険の仕組み、患者が自由に医療機関を選べる「フリーアクセス制度」など、日本の医療制度に関する情報が包括的に提供されています。困ったときの相談窓口として、多言語コールセンターなども紹介されています。このように、国・自治体・民間が連携し、医療インバウンドの環境整備が多角的に進められています。
医療ツーリズムの課題
医療インバウンドを推進するにあたり、いくつかの深刻な課題が存在します。
日本の医療機関では、主に「国際診療部」が医療インバウンドを担当しています。ここでは外国人患者の受け入れに向けた院内調整を行い、通常診療とのバランスを取りながら業務を遂行しています。ただし、病院の国際診療部は専属の部門ではないことが多く、医療インバウンドを専門に扱う体制は病院全体で整備しきれていません。そのため、多くの医療機関では、医療渡航支援企業と連携し、患者との折衝、医療情報の提供、ビザや航空券の手配、滞在支援などの業務を委託しておりますが、すべての病院が連携をしているわけではないため、外国人患者受け入れの病院を事前に確認する必要があります。厚生労働省と観光庁が連携し、2025年6月26日に発表された「外国人患者を受け入れる医療機関の情報を取りまとめたリスト(医療機関リスト)」の整備を進めています。このリストにより、患者の利便性が高まり、医療機関や行政のサービス向上にもつながることが期待されています。
そのほか、フランスのニュースサイトVoyagesによると訪日外国人の医療費未払いの問題があります。救急診療では支払能力や意思を確認する前に診療が始まるため、未払いのまま帰国するケースもあります。これに対し、日本政府は2027年までに未払い者の再入国を制限する方針を掲げ、自民党も旅行保険の義務化を検討中で、予防策として制度の整備が急務となっています。
また、日本の医療機関は他国と比べ、受け入れ判断や価格提示に時間がかかる傾向にあります。国際診療部と診療科の連携不足やリソースの不足が原因であり、これらの遅延は患者の選定段階での競争力低下につながっています。
価格設定についても課題が残っています。診療報酬の2~3倍を基準とする医療機関が多い一方で、保険診療と同価格で自由診療を提供する例もあり、適正な価格戦略の策定が求められます。医療インバウンドをビジネスとして成立させるには、院内の連携の強化や価格に見合う高付加価値サービスの開発が不可欠といえるでしょう。
日本の医療を世界へ、高品質・低価格で欧米市場にも照準
日本の提供医療サービスとしては、がん検査、内視鏡治療、肝がん治療、心臓カテーテル治療などが強みとなり訪日旅行での医療ツーリズムの目的のひとつです。ターゲット国としては、従来は中国やベトナムなど東南アジア諸国が中心でしたが、訪日韓国客増加に伴う日本の注目度の上昇や先進国と比較した物価差による医療価格の安価などは今後は欧米諸国に対しても「高品質かつ割安な医療サービス」としてアピールできることが見込まれています。
今後は、潜在力のある医療機関に対する支援がより求められます。さらに、外国人患者対応力の強化や、医療従事者の国際対応能力向上も進めることで、質の高い医療を継続的に提供できる体制の整備が期待されてます。
また、医療ツーリズムの拡大を図る上では、広告やプロモーション活動に関する規制範囲の明確化も重要な課題です。日本では医療法による広告規制が存在しており、医療機関が海外向けに情報発信を行う際、何が許可され、何が規制対象となるかの判断が難しい場合があります。
こうした中、インバウンド支援を行うグローバル・デイリーでは、医療インバウンドにおける広告・プロモーションに関する規制の動向を継続的にウォッチし、適正な情報発信のあり方をサポートしています。
あわせて、施策の精度を高めるためには、訪日旅行者のみならず在留外国人のリアルな声を反映したリサーチや、在留外国人を通じた共感性の高い情報発信も不可欠です。
グローバル・デイリーは、現地目線の調査とプロモーションを組み合わせることで、日本の医療ツーリズムの信頼性向上とさらなる認知拡大に貢献してまいります。
このコラムを書いた人

グローバル・デイリー / 広報部
媒体部兼進行部の経験を経て、海外のプロモーション会社や出版社とのパートナーシップを築いてきた。各国のトレンドや需要を抑えながら、企業のニーズに沿ったインバウンドプロモーションについて長年にわたり従事。