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「アベノミクスに成長戦略はない」は本当か 金融緩和で日本の観光産業は高成長軌道に

外国人観光客は通年で1500万人超のペース

2014年頃から、日本を訪れる外国人観光客の数が大きく増えているが、2015年になっても勢いはほとんど衰えていない。先日判明した4月の訪日外国人は、前年比43%も増えた。もし、1~4月のペースで外国人観光客が増え続けると、通年で1500万人を超えると観光庁は認識している。

日本の株式市場においても、外国人旅行者によるインバウンド消費の恩恵をうける、百貨店や量販店が関連銘柄とされ、関連する企業の株式についてアップサイド(価格上昇余地)の可能性が議論されるなど、日本の金融市場においても訪日客の動向は注目されている。

実際に、この1~2年、街を歩く外国人旅行者の数が目に見えて増えていることを実感されている方も多いのではないか。旅行者を中心に訪日外国人が増えているのは、ビザ要件緩和などの政府による対応が後押しした面もある。

ただ、2014年からの外国人旅行者が大きく伸びていることに最も大きく影響したのは、2013年以降のドル円の変化であろう。アベノミクス発動で1ドル80円前後だった「超円高」が是正され、日本の観光サービス業という「輸出産業」の価格競争力が高まったということだ。

2014年半ば頃には、為替レートが円安になっても、日本からの輸出がなかなか増えないことがたびたび話題になった。これを理由にして、「金融緩和強化など総需要刺激政策を繰り出しても、経済活性化をもたらさず、資産価格を過度に変動させるだけだ」といった、金融緩和による弊害を指摘する議論もあった。

実際には、為替レートの変化が、自動車や機械部品などのモノの輸出価格や販売価格に影響するかは、企業の価格戦略に依存するため、輸出の押し上げ効果には不確実な部分がある。

通貨安が進んでも、現地での販売価格を大きく変えずに、マージン拡大を優先させる価格戦略をとった日本企業も多かったようだ。このため、モノの輸出動向は、米国を中心とした世界経済の動向に左右される側面が大きく、2014年半ばから米経済復調の後押しによって、円安効果があらわれた。

観光産業はアベノミクスで「サービス輸出」を満喫

一方、日本の食文化、サービス、景観、安全などの、「独自の付加価値」を提供する観光業においては、製造業ほど価格戦略は複雑ではない。

アベノミクス発動前の超円高が修正され外国人旅行者にとって、その付加価値に見合った価格帯に費用が低下すれば、それが訪日客拡大につながり、観光業という「サービス輸出」の拡大がストレートにおきる。

2005~07年の前回の円高修正局面においても、訪日外国人は10%以上増え、アジアやオーストラリアからの観光客が増えたことが話題になった。

当時はFRBが利上げを続けたこともあり、割高だった通貨円の修正が進んだ。日本の価格競争力が戻り、高成長を謳歌して所得水準が高まっていたアジアや欧米人の、日本への旅行に対する潜在需要が顕在化した。

そして、2013年以降は、アベノミクス発動による日本銀行の金融緩和の強化によって、日本の観光産業に対する海外からの潜在需要を、能動的に顕在化させた面が大きい。「爆買い」という言葉が象徴するように、外国人旅行者による消費拡大は、日本の景気回復を後押ししている。

これは関連企業にとっては大きな影響を及ぼすが、外国人によるインバウンド消費の規模は、日本人の消費の規模と比べ小さいために、マクロ的に景気循環を左右するほど影響は大きくない。ただ、金融緩和強化で実現した円高修正が、日本の成長率の底上げをもたらす分かり易い例である。

金融緩和が「第3の矢」を後押していることが明白に

また、金融緩和によって潜在的に隠れていた観光需要が顕在化することは、外国人旅行者による消費拡大で、短期的なGDP成長率を押し上げるだけにはとどまらない面もある。

つまり、過去約20年間のデフレと超円高で抑制されていた外国人訪日客が増加することで、本来先進国にとっては有力な成長産業であるはずの観光業が、今後日本でも持続的に成長することである。

さらに、訪日客増加をきっかけに、国内の観光産業の発展に必要な、空港や交通インフラ拡充、またホテルなどの宿泊・建設投資拡大をもたらす可能性がある。

そもそも、金融緩和強化がもたらした超円高の是正によって、循環的に成長率を押し上げてデフレからの脱却をもたらすのが、本来の総需要安定化政策の第一の目的である。

それに加えて超円高の是正は、潜在的な成長余地があった観光産業発展のきっかけとなり、産業構造の多様化ももたらす。そして、長期的な経済成長の糧となる設備投資需要を誘発し、経済の供給側の成長力を底上げする経路を用意するということだ。

金融緩和強化であるアベノミクスの第1の矢で超円高が解消されたことは、資産価格の変動をもたらすだけではない。これまでの連載で述べてきたように、失業率を低下させて労働市場で新たな職を生み出した。

そして、超円高の是正が観光産業の拡大のきっかけになり、成長戦略とされる第3の矢を後押した意味でも、金融緩和強化が果たした役割は大きかったのではないか。金融緩和による超円高の解消は、日本の成長戦略の効果を高めると思われる。