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訪日外国人を「美容院」に呼び込む フォーサイス|訪日客に対応する美容室の運営

訪日客の増加に合わせ、外国人客を取り込んでいる美容業界の先駆者。スタッフの英語研修などのノウハウを生かし、同業他社向けの研修事業を始めている。

1~9月の訪日外国人数が昨年実績を超え、通年では政府が2020年の目標としている2000万人突破が視野に入ってきた。外国人観光客による家電や日用品の「爆買い」は日本経済を潤している。そんな中、美容室などを運営するフォーサイス(大阪市)は日本の高い「美容技術」を新たな観光資源として打ち出し、成功を収めている。

「訪日客の目的はリピーターを中心に、『どこに行く』から、『何をする』に変わる。その選択肢の一つに、美容サロンを加えたい」。フォーサイスでインバウンド(訪日客)事業を統括する営業企画部の中野真司さんは語る。

3割の女性が美容に興味

訪日客の美容技術への需要は大きい。リクルートライフスタイルがアジア圏在住の女性に調査したところ、26.5%(複数回答)が日本でしたいこととして「美容サロンへ行くこと」を挙げている。これは、「世界遺産の観光」よりも多い。

日本では美容師は国家資格で、専門学校でカット技術だけでなく薬剤や接客の技術や知識なども身に付けている。それに対し、アジアでは日本のように美容師に国家資格を与えている国は少なく、美容師の技術レベルが不安定だ。衛生面も優れた日本の美容室でサービスを受けたいと考える外国人は多い。

日本の美容業界は、店舗過剰や低価格化、少子高齢化による客数の減少などに苦しんでいる。フォーサイスの池澤和則社長は、「国内だけに目を向けていては今後成長はできない」との思いから、2011年からインバウンド需要取り込みに向けた様々な施策を打ってきた。

フォーサイスがまず取り組んだのが、美容師やアシスタントの語学力の向上だ。「美容室の滞在時間は、飲食店や土産物店よりも長い。きちんと会話ができなくては、お客さんも退屈してしまう」(中野さん)と考えたためだ。

月曜日の朝9時半。東京・青山にあるフォーサイスが運営する美容室「アリーズヘアー青山」をのぞくと、美容師やアシスタントの社員4人が、パソコンに向かって英語を話していた。インターネットを使った無料通話ソフト「スカイプ」でつなぐ先は、大阪にあるフォーサイスの本社。画面には女性の英語講師が映っている。

この店舗では、毎週月曜日と木曜日の営業時間外を利用し、英語の語学研修を実施している。パソコンの画面に映る英語講師は、フォーサイスの社員。美容師やスタイリストに英語を教えるためだけに採用した。外部の英会話学校では、美容室での接客に特化した内容を学べないと考えたからだ。

研修では、美容師が接客に必要なフレーズなどをまとめた自作のテキストを使う。録音機を施術台に置いて客と美容師の会話を録音し、何度も繰り返し聞きながら作成した。

語学だけではなく、サービスや店内の表示なども工夫している。外国人に日本の美容室に対する不安や不満などの聞き取り調査を実施したところ、意外な指摘があった。一例が、シャンプー後などのマッサージだ。日本では当たり前の無料サービスでも、チップ目当てのサービスだと勘違いし、欧米人を中心に受けるのを嫌がる外国人もいるという。フォーサイスでは必要だと判断すれば事前に説明したりするなどし、こうした不安を取り除いている。

「タトゥー消し」が人気に

外国人の注目を集めているメニューもある。それが、入れ墨(タトゥー)のカバー施術だ。日本では入れ墨禁止の温泉が多く、落胆する訪日客は多い。フォーサイスの店舗では、エアブラシという専用機器を使って入れ墨を見えにくくするメニューを打ち出している。大阪の心斎橋店では月に20人前後がタトゥーカバーのために訪れるが、外国人の客数も徐々に増えてきた。

外国人を広く受け入れていることを知ってもらうために、大阪観光局にも登録している。観光局への登録は飲食店や観光地が多く、美容室を運営する企業の登録は初めて。

登録した企業は、観光局主催のセミナーに参加できるほか、空港や訪日客の多いホテルに置く英語の冊子やチラシの中に店舗情報を掲載できる。

従来はホームページやSNS(交流サイト)で宣伝していたが、なかなか訪日客に知ってもらえずに苦労していた。それよりも、ホテルや空港に置くチラシのほうが効果は大きい。現在、フォーサイスの店舗を訪れる外国人の多くが、チラシや冊子を手にしている。

こうした施策が実を結び、フォーサイスが直営で運営する美容室5店舗では、2011年、2012年とほぼゼロだった外国人の客が、2014年は350人に増加した。今年はさらにその倍の700人に達する見通しという。外国人客で月10万円以上の売り上げを稼ぐスタッフも多く生まれている。

これまでのノウハウを生かし、今年10月にフォーサイスは自社以外の美容室やネイルサロンの運営企業を対象とする研修事業を始めた。専門用語などを取り入れた実践的な英会話のレッスンがその中心で、既に複数のサロンから話を聞きたいと問い合わせが入っている。

今後は海外での店舗展開も考えているが、当面は訪日客向けの事業を拡大させ、2020年東京五輪の選手村に美容室を設置することを目指す。「モノ」だけでなく「コト」消費への注目度も高まる中、フォーサイスも美容業界の先駆者として、その一翼を担おうとしている。