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ビジネスホテル沸騰、熱気はいつまで持つか 訪日外国人客で稼働率急上昇、開業ラッシュ

今年9月末に開業したばかりの「アパホテル歌舞伎町タワー」のロビーには、深夜にもかかわらず、20人以上が詰めかけていた。会話や服装からすると大半がアジア系の外国人の様子。なかには「満室なので、予約がないと泊まれない」と断られ、大荷物を抱えたまま途方に暮れる人も。代わりとして日暮里のホテルを案内されていた。

今、ホテルが足りない。似たような光景は、全国の観光地で繰り広げられている。

東京や大阪のホテルの稼働率は90%近く

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原因は、中国人を中心とする、訪日外国人客(インバウンド)の激増だ。日本政府観光局によれば、2015年1〜10月の訪日客数は、前年同期比48%増の1631万人で過去最高。特に中国からのインバウンド数は倍増の428万人に達した。政府は20年に2000万人の目標を掲げたが、16年にも届く勢いである。

ホテル業界はかつてない活況に沸く。とりわけ安い料金で泊まれるビジネスホテルは人気が高い。ホテル運営コンサルタント大手、ホーワス・アジア・パシフィックジャパンによれば、東京や大阪のビジネスホテルの稼働率は90%弱。85%で満室といわれるホテル業界で、過去最高水準に近い。

稼働率の上昇を追い風に、平均単価は急上昇。ホーワスによれば、14年に東京都内のビジネスホテルのGOP(営業粗利率・減価償却費含む)は、平均で52%に達した。

新規参入も続く。貸会議室大手のTKPは、アパのフランチャイズとして参入。不動産中堅のサンケイビルも、主要都市でビジネスホテルを開業する計画という。

中でも訪日客を当て込んだ開業ラッシュとなっているのが新宿・歌舞伎町だ。

椿山荘で知られる藤田観光は、ビジネスホテルを成長戦略の要に据えており、活発な出店を進めている。

今年4月には、新宿コマ劇場の跡地に、東宝と提携して「ホテルグレイスリー」(970室)を開業。中腹にゴジラを抱くユニークな外観は、海外でも話題を集めた。

さらには駅を挟んだ西口にある「ワシントンホテル」本館の改装にも着手。16年春の再開時には、客室数が約2600室と、新宿駅周辺で断トツの規模となる予定である。

新宿ではゴジラとアパが激突

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真っ向勝負を挑むのがアパグループだ。同社はビジネスホテルで日本最大手を目指し、10年から東京23区内での出店を加速している。

今年9月末には“ゴジラ”のはす向かいに前述の歌舞伎町タワーを開業。地上28階建て、客室数620と、規模が大きい。すでに新宿エリア内に4軒のホテルを保有、加えて2つの建設に着手している。計画中も含めて、新宿内で2150室を構えるという。

アパグループの元谷外志雄代表は「全国で客室数は5.5万を超えた。20年までに10万を目指す」と気炎を上げる。

こうした開業ラッシュや異業種参入について、ホテル開発に詳しいオラガHSCの牧野知弘代表は、「ビジネスホテルはシステム化され、参入障壁が低い」と説明する。

宴会場やレストランを備えたフルサービスの高級ホテルは、開業後もサービスの維持や向上のために多額の運営費がかかる。だが、ビジネスホテルは人手がさほどいらず、運営費は少なくて済む。集客を「じゃらん」や「楽天トラベル」といった、オンライン予約サイトに任せておけば、宣伝費もかからない。

一方、全国に5万室を展開する東横インは、こうした争いを静観。「需要に応じて価格を変えることはしない」(東横イン)。客室単価(東京都内でシングル7800円)を据え置き、従来からの顧客を重視する姿勢を貫く。

実際、いつまでこの好調が続くのか、業界関係者も確信が持てないのだ。

気になる”東京五輪以降”に備えも

ホテルの建設そのものは2年程度でできるが、用地の取得や手続きも含めると、開業まで最低でも3年はかかる。東京五輪が開催される20年以降も需要はあるのか。折からの人件費や建築費高騰に加え、テロや感染症などのイベントリスクもある。

アパの元谷代表は「大型の開業はそろそろ一巡。16年以降は徐々に投資負担の少ない中小型ホテルにシフトする」と需要縮小にも備える。

藤田観光の場合、横浜のワシントンホテル内に、接客研修用の施設を開設。高級感のあるビジネスホテル、というイメージを打ち出すことで、顧客の定着を図るためだ。

11月上旬に開かれた観光政策を検討する政策会議。安倍晋三首相は「2000万人は通過点」と宣言した。ホテル狂騒曲はいつまで続くか。