検索
Close this search box.

News ニュース

2030年に8000万人! 訪日客の呼び込みに政府は強気 「日本は磨けば光る」というが…

「2020(平成32)年までに年2000万人」とする訪日客数の政府目標が前倒し達成が確実になっている。ただ、その多くは首都圏や大阪、京都、富士山周辺に偏る。今後、“空白地”である地方への誘客が訪日客数拡大の鍵を握るのは間違いない。このため、訪日外国人旅行客の地方誘客に向けた取り組みが、官民で動き出している。政府が観光立国の構想会議で議論を本格スタートさせたほか、民間企業もビジネスチャンスを探り始めた。

衝撃的な数値目標

「5600(万人)」と「8200(万人)」-。12月上旬に開催された政府の観光立国に関する構想会議の作業部会。配布されたA4判資料で、紙全体に赤く印刷された2つの数字が出席者の注目を集めた。5600万人は、現段階の訪日客の受け入れ潜在能力、8200万人は2030(平成42)年の目標数だ。

政府目標のはるか上を行く衝撃的な数値目標をぶち上げたのは、日本の文化財修理を手掛ける小西美術工芸社のデービッド・アトキンソン社長。アトキンソン氏は「観光大国の4条件は自然、気候、文化、食だが、日本はいずれもある」としつつ、諸外国が国内総生産(GDP)に占める観光産業の規模を踏まえて試算した。

ただ試算の具現化には、日本の“潜在能力”を生かすのが絶対条件。会合では「文化財は保全よりも見せることに主眼を置くべき」「日本政府観光局(JNTO)のホームページは見づらい」などの辛口意見が相次ぎ、観光庁の田村明比古長官は「いただいた意見を受け具体的な施策を議論したい」と述べた。

何重にもメリット

JNTOが16日に公表した今年1~11月の訪日外国人旅行者数は1796万4400人となり、年間の過去最高を更新。訪日客2000万人時代を目前に、政府は年間目標3000万人を見据えた対策の検討に入った。だが現状では訪日客の多くが首都圏や大阪、京都、富士山周辺に偏り、10月における宿泊施設の客室稼働率は、東京と大阪が8割を超える一方、地方では5割を切る県も散見される。

都市部で不足する宿泊施設への対応として、政府は一般住宅に有料で外国人客などを泊める「民泊」の活用も視野に議論を進めているが、衛生や治安、安全確保などの課題解決は道半ばで、「民泊が必要なのは大都市など限定された地域」(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)との意見も根強い。

かたや地方誘客は二重、三重のメリットがある。昨年の訪日外国人の旅行消費額は約2兆円だが、今年は1~9月だけでも約2.6兆円。今後も大幅な伸びが見込まれ、地方経済に好循環を与えるとの期待が大。都心部の宿泊施設不足も緩和される上、旅行体験をきっかけに、農産物など日本製商品の輸出増にも効果が見込まれる。

リピーターの訪日客の中には地方に足を向ける動きも出ており、ニホンザルが温泉につかる長野県・地獄谷やサクラの名所などは、すでに人気スポットとなりつつある。

お遍路に高級果物も

こうした流れを加速させるべく、政府も東京や関西以外の国内7地域を「広域観光周遊ルート」の“お墨付き”を与え、積極的な誘客に乗り出している。認定地域は県境をまたいだ観光プランを策定することが条件で、四国地方を中心とした「スピリチュアルな島」ルートでは、お遍路体験などを盛り込んだ滞在型ツアーを企画している。

政府は並行して、三大都市圏以外の免税店拡大を進め、10月1日現在の店舗数は半年前より4583店増加した。来年度からは、消費税の免税対象となる購入額を1万円超から5000円以上に引き下げ、旺盛な買い物需要にこたえる。文化財の解説の英語表記についても、有識者会議での議論が進んできた。

足並みをそろえるように民間企業も動き出す。

星野リゾート(長野県軽井沢町)と日本政策投資銀行は、経営存続が難しい旅館やホテルなどを支援するための共同運営ファンド設立を発表した。星野リゾートが予約システムや改装計画などで助言を行うことで収益性を高めた上でリスクマネー供給を組み合わせ、地方の宿泊施設への投資を呼び込む狙いだ。

JR東日本はJR西日本と共同で、関西と東京を東海道ではなく北陸経由で結ぶ、訪日客向けの格安周遊キップを設定した。新幹線を含む特急や普通列車が7日間乗り降り自由で、ルート多様化を図る。JTBグループは日本の隠れた強みである豊富な農林水産物を売りとする訪日客向けの地方ツアーを充実する。来年1月に京都府内の農園で高級ナシを収穫、日本海のカニも楽しめる「産地連携ツアー」を企画中だ。

田村観光庁長官は、「日本は磨けば光る観光素材があり、加えて近隣に中間層の成長著しい国を抱える地理的条件を持つ。きちんと受け入れ態勢を整えれば、高い潜在能力がある」と、地方観光資源の底力に期待を寄せている。(佐久間修志)